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カラー原稿の現場(前編)

2003.12.25

 めずらしく『プーねこ』(月刊アフタヌーン連載)でカラー原稿を描く機会があったので、かなりおおざっぱですが、カラー原稿が完成するまでの作業の流れを記録してみました。といっても、ハウツー的な要素はほとんどないので、おそらく絵を描くための役には立たないかと思いますが、なんとなくこんな感じで作業してますというのが伝わればと。


猫回しサムネール1 猫回しサムネール2 猫回しサムネール3

▲上の3点の絵はサムネールスケッチです。大きさはタテ4cmくらいの小さなもの。今回は12月売りの2月号という話だったので、単純に「正月→申年→猿回し→猫回し」で、猫を操る猫回しの女の子とその猫を描くことに。このイラストの中には4コマ漫画も入ってくるので、そのへんも意識しながら。


猫回しスケッチ 猫回しサムネール4

▲(左)これはいつも使ってるアイデアメモ帳。コンビニで売ってる無印のヤツです。留め具の輪の中に、ボールペンがちょうどスッポリ収まるので持ち運びに便利。ちなみにボールペンは、pentel社の水性ゲルインキ「ハイブリットK105」の赤。なぜ赤なのかは自分でも謎。ガシガシ描き込んでも絵が重くならないからか?
 左の絵は猫回しの女の子のスケッチ。(右)のサムネールは構図の最終案。背景の金屏風をやめて飾り扇子に変更。


猿回しスケッチ 太鼓台スケッチ

▲(左)猿回しの衣装と道具のスケッチ。これは仕事用に調べたわけじゃなくて、ずいぶん前に偶然図書館でメモったもの。確か土門拳の写真集だったと思う。(右)猿回しの太鼓の台の構造がよく分かんなくて、ネットで調べながらメモった太鼓台のスケッチ。絵が描ける程度には理解はしたけど、細かい構造までは理解できんかった。猿回しでよく使われてる例の太鼓は『締太鼓』(しめだいこ)という名前の太鼓らしい。紐で締めてあるから締太鼓。


締太鼓・鉛筆下描き

▲で、その締太鼓の鉛筆下描き。調べたわりには構造に矛盾があるけど気にしない。色塗れば分かんないし。


猫回し女の子・鉛筆下描き

▲猫回しの女の子の鉛筆下描き。(左)は失敗したやつ。頭が大きいなあと思いつつそれでもあきらめきれずに体も描いたけど結局バランスが悪くてボツに。往生際が悪い。んで(右)が翌朝あらためて描き直した下描き。やっぱ睡眠は大事です。


鏡でチェック 鉛筆下描き完成

▲一応、鏡でチェック(左)私の絵はたいていの場合、反転すると(海外版とか)顔が歪んでたりするんですが、今回は上手くいったようです。(右)とりあえずキャラの鉛筆下描き完成。でもまだ背景が残ってる。


猫回し猫・拡大

▲回されてる猫の鉛筆下描き画像。


飾り扇子・資料 背景ペン入れ完成

▲(左)飾り扇子の参考資料。(右)背景のペン入れ原稿。このあたりから写真が極端に少なくなります。たぶんテンパってて写真なんか撮ってる状態じゃなかったんでしょう。背景を別の紙に描いたのは、込み入った背景なので手前の人物をよけながら下描きするのが面倒くさかったから。

 今回のカラーは(というかカラー原稿の時はいつも)データ入稿するのですが、原則としてデータ入稿の原稿は、刷り上りサイズで渡します。刷り上りサイズというのは雑誌に載ってるあのサイズ。普段、漫画の原稿を描くときは、雑誌サイズの122%で原稿を仕上げて、印刷屋さんで82%に縮小してもらうんですが、データ入稿の場合は自分で縮小するんですね。

 最初から原寸(雑誌サイズ)で描いてもかまわないんだけど、縮小したほうが線が綺麗に出るからあえて大きく描くわけです。で、今回の背景画はコテコテに色を重ね塗りする予定で、線が太くても特に支障はなかったので、最初から小さいサイズで描きました。小さいほうが下描きも楽だし。データも軽い。


背景塗り完成

▲そして背景塗り作業完了。ここでようやく写真を撮ってない事に気がついて、あわててカメラにおさめる。


カラー原稿の現場(後編)

2003.12.25

 懸案の背景塗りが完了したところで、ようやく人物キャラのペン入れ。ここからはパソコンだけの作業。使用ソフトはPhotoshop5.0.2とPainter6。えーとパソコンはPower MacG4 733Mhz メモリは1GB、OSはMacOS9.2.2。たぶん壊れるまでこのまま。


人物キャラ・ペン入れ原稿

▲ペン入れが完了したら、パソコンに線画を取り込むためにスキャン。解像度は350dpi。いつもはグレースケールで読み込むんだけど、アフタヌーンの原稿用紙はブルーのラインが入ってて、そのままスキャンすると薄いグレーで読み込まれてしまうので、今回はRGBカラーでスキャンしました。こうするとあとでブルーの情報を捨てれば消しゴムを使わなくても綺麗に消すことができるのです。

 ウチのスキャナはA4までしか取りこめないので、大きい画像は上下2回に分けてスキャン。んで、Photoshopで開いて貼りあわせて縮小します。変形ツールは使わずに解像度をいじくって縮小。

 それが済んだら、モードメニューでRGBをグレースケールに変換して、画像のコントラストを調整して、気になるゴミを取って、というあんまり楽しくない下準備を淡々と続けます。


線画読み込み画像 クイックマスク作業

▲ゴミ取りは画像を白黒反転させると取りやすいです。あまりに細かいゴミはキリがないので適当に無視。(左)は調整されて綺麗になった線画。ここで線画を選択範囲として保存して元絵は捨てます。白い部分は要りません。線画の部分だけ欲しいんです。透明なレイヤーの線画を作ると後々便利なのです。

 線画を選択する方法は、チャンネルパレットを表示させて、コマンドキー(WinはCtrl?)を押しながらクリックすると線画以外のところが選択されるので、その選択範囲を反転させれば線画のみの選択範囲になります。で、新しいレイヤーを作って、線画の選択範囲を塗りつぶせば、線画のレイヤーの完成。透明な部分をロックしておけば、後でいくらでも色は変更できます。・・・と、ここまでがグレースケールモードの作業で、このあとはRGBモードに変換して作業します。

 (右)はクイックマスク画面。以下、人物キャラの塗り部分のマスク作業を淡々と。


マスク線画抜き

▲大きめに作ったマスクに、あらかじめ保存しておいた線画のマスクを読み込んで、線画の部分を抜いたところです。


スポロガム作業1 スポロガム作業2

▲糸引き選択ツールで不要な部分を消していきます。グリコのスポロガムの要領です。

(30歳以上限定ネタ)


線画選択範囲読み込み 線画選択範囲塗りつぶし

▲不要な部分を全部消したら、(左)再び線画の選択範囲を読み込んで塗りつぶします。これでだいたいマスクは完成。(右)でもよく見ると、マスクの中に線画がうっすらと。これが嫌な人は、マスク以外の部分(白いところ)を選択ツールで選択してそれを反転して塗りつぶせば完ぺきなマスクの出来上がり。


線画&塗りマスク表示

▲線画用マスクと塗り用マスクを重ねて表示した画像。


線画色変更 レイアウト調整

▲(左)さっそく線画を茶色に替えてみた。塗りの肌色は仮塗り。(右)は背景画と人物キャラの配置を調整しているところ。


Painter作業画面

▲ようやくPainter作業。Painter6以降では、Photoshopのレイヤーとかマスクは全部そのままの形で引き継がれるようになりました。で、上の画像はいっけん白く塗りつぶした人物キャラが、背景画の上に乗っているかのように見えますが、実は白い部分は人物キャラの形に背景画がくりぬかれていて、その下にある紙がそのまま見えている状態なのです。つまり背景画の下にもう1枚、キャンバスというPainterの紙が敷いてあるわけですね。キャンバスは常に一番下に貼り付いていて。絶対に動かすことはできません。

 で、せっかく描いた背景画をどうしてくりぬいたかというと、好んで使っているPainterの「水彩ブラシ」が、この「キャンバス」という紙の上じゃないと使えない仕様になってるんですね。他のレイヤーの上では警告音が鳴って拒否されちゃうのです。なので苦肉の策として、本来一番下になるはずの背景画をくりぬいてキャンバスの上に持っていき、キャンバスと背景画の間で水彩ブラシを使うという面倒くさい方法をとってます。いや説明するのが面倒くさいだけで、作業そのものは簡単ですが。


水彩ブラシで下塗り 下塗り完了

▲(左)水彩ブラシで下塗りをしてるところです。マスクを効かせてあるので、ガーやってもはみ出しません。(右)下塗り完了いったん乾燥。水彩ブラシで塗った色は乾燥させるとキャンバスに固定されて、そのあと水彩ブラシで塗り重ねても、色がにじんだり混ざったりしなくなります。なんとなく疑似水彩。逆に乾燥させなければ何度でも塗り直しが可能。


水彩ブラシ・影塗り

▲んで、その水彩ブラシの特性を生かして、薄い紫灰色で影付け作業をしているところ。色のことはひとまず置いといて、ここは影付けの作業に専念。


彩色・加筆

▲影の作業が終わったら、乾燥させずに、しかるべき色をしかるべき処に上から塗り重ねていきます。どこに何を塗るのかは影塗りの作業でもう決まってるので、今度は色のことだけに集中して。

 塗り終わったら乾燥させて、水彩以外のブラシや鉛筆やペンやボカシ筆を使って仕上げます。


完成画像

▲ というわけで再びPhotoshopへUターン。最後に別途用意したトンボ入りの入稿用原稿用紙に画像を貼り付けてようやく完成です。というか、もっと簡潔な文章でまとめるつもりが、だらだらと締まりのない説明になってしまいました。ちなみにコマ漫画やキャラのみの場合はこんな面倒くさい描き方はしません。複雑な背景のある1枚絵の仕事の時だけです。ということで、おしまい。

拡大画像


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